生活保護ケースワーカー奮闘記

令和時代に福祉事務所のケースワーカーとして働く公務員の皆さん、またその関係組織の方々に関する情報を提供します。

入居者の特徴~精神疾患編(アルコール依存)

アルコール依存症生活保護

 

 生活保護受給者の中には、アルコール依存症に苦しみながら生活を送っている方もいらっしゃいます。保護開始時に依存症であるために仕事が見つからず申請される方、何年も治療をしてきているが、スリップ(再飲酒)してしまう方、何十年もスリップせず、しかし年金だけでは生活のできない高齢者まで幅広いです。

 アルコール依存症にどうしてなってしまったか、どうしたら防げるかというのは個別具体的な話になってしまいます。CWは、このアルコール依存症の方々の支援として、通院、断酒会(AA)、服薬という3つの柱を中心に行っていきます。

 アルコール依存症は治ることはありません。一度陥ってしまうと、最期まで服薬と通院、断酒会への通所を重ねていくことになります。理解のある支援者、自分が病識して治療に積極的になっていくことが復帰への第一歩となります。

 経験上、アルコール依存症の方がスリップをしないことはありません。保護開始以降、何度もスリップをしてその都度、保護費をすべて使い切る、生活に困ると相談されることがあります。

 

アルコール依存とアパート生活

 アルコール依存症の人はアパート生活がでないと考えられる方もいます。しかし、依存症もその進行度合い、治療度合いによって症状がまちまちです。上記の通り、何年も通院、服薬、通所が達成されている方であれば、アパート生活も問題がありません。しかし、まだ治療に取り掛かれていない方、治療初期段階の方などがスリップをしてしまうケースは残念ながら多くあります。

 

 時折大家さん、不動産会社さんからこのような連絡を受けることがあります。

  •  入居者が深酒をして周辺住人に暴言を吐く。
  •  不動産会社へ乗り込んできて、金を寄こせとせびる。
  •  家の中、酒瓶だらけで昼間から飲んだくれている。
  •  福祉事務所は、酒を買わせる金を与えてどうするのだ。
  •  早く入院させろ、でないと退去させる。
 こういった話は多々あります。アルコール依存症の受給者を担当するCWは、何度もこのような連絡を受けます。
 非常に難しいのが、アルコール依存症の方に対して「酒を飲まないように」という指導をしても、全く効果がないところです。アルコール依存症は本人の意思と関係なく飲酒をしてしまうのです。何かしらのストレス、過去のトラウマ、友人との会話、疲れ等何でも再飲酒の引き金になります。
 飲んでしまうと、あとはお金の底が尽きるまで飲み続け、お金が無くなっても飲み続けようとします。だから、病気なのです。意思が弱い、根性がない、お金があるから飲むのではなく、そのために適切な治療、支援が必要なのがアルコール依存症です。
 
 

アルコール依存症へのケア、アパート生活、転居

 アルコール依存症の方が生活保護を申請、決定となると、まず福祉事務所としては以下のような支援を考えます。既にアパート入居している者であれば、

  1.  定期通院(アルコール治療)デイケア*1通所
  2.  自助グループへの通所を勧める(AA、断酒会*2
  3.  服薬管理のための訪問看護導入
  4.  日常生活に不安があれば、障害福祉サービスのヘルパー導入
  5.  生活が落ち着いてくれば、作業所や地域活動支援事業所、短時間就労などしてみる等
と、在宅生活を継続させるための支援を行います。大体このケースが多いです。
いかに孤立させず、アルコールと距離を取るか、この点が重要になります。
しかし、順調に生活をしている中で前述のようなスリップ→救急搬送、入院などのパターンもあります。
 どれだけ支援を厚くしていても、ふとしたきっかけでスリップしてしまうことがあるため、アルコール依存症支援の難しさは常に感じます。
 
 アパートに入居しているが、既に退去指示が出ているや治療のために入院を希望しているなど(レアケース) 
  1.  居宅生活ができない場合は、治療入院
  2.  治療入院の後、まだ独居生活に不安と本人や主治医が判断すれば、生活再建のための更生施設入所*3
  3.  更生施設ではなく、アルコール依存症精神疾患の方が集まって生活するグループホームへ入所する。
  4.  更生施設やGHでの生活が安定していて、施設でも居宅生活ができると判断、医師も定期通院を条件にアパート転宅を認める。
  5.  アパート転居後は前述の支援を行っていく。地域生活へ移行する。

となります。

 よく治療入院で使われるのは、都内であれば三鷹市にある井之頭病院が多いです。

www.inokashira-hp.or.jp

そのほか、榎本クリニックなど。

www.enomoto-clinic.jp

井之頭病院は入院・通院、榎本クリニックは通院やデイナイトケアに通所することで多く使われます。

 

実際の支援の難しさ

 

 ここまで支援方針が固まっているなら、何故アルコール依存症の支援が難しいのか。それは、支援の殆どを、受給者本人が望まないためです。福祉事務所がいくら支援を提案しても、最終的に決めていくのは本人です。しかし、「自分はもう飲まない」「あまり人の世話になりたくない」「薬さえ飲めば大丈夫」といった考えが邪魔をして、スリップをひたすら繰り返すことが多いです。

 何度も繰り返し、やっと少しずつ支援が浸透することで少しずつ地域生活へ移行していくという形になります。

 

 

アルコール依存症と大家さん

  今後、アルコール依存症治療中の方、初期段階の方を入居者に持つ場合は以下の通りの対策を考えます。

  • 迷惑行為が多発した場合は退去勧告する。
  • 家賃は住宅代理納付とする。
  • 迷惑行為が起きた際にはすぐに福祉事務所に連絡する。
  • 時には警察への連絡も検討する。

福祉事務所としては、迷惑行為が多発することは想定の範囲内です。しかし、大家さんの立場に立てば、他の入居者に対しての迷惑行為は控えてもらいたいところです。

また、保護費を使い込んでしまう可能性もあることから住宅代理納付の設定は必須です。できない場合、最悪福祉事務所で数か月分の家賃を持っておいてもらう等金銭管理対策もお願いしたいところです。

そして、対応に苦慮すれば福祉事務所、警察へ連絡をすることが必要です。

 

いずれにせよ、一筋縄でいかないのが依存症の恐ろしさです。

是非とも参考にしてください。

 

 

*1:入所者・通所者とのミーティングなどで意見交換や自分の体験の共有、運動などのアクティビティへの参加を通して、日常生活を通常通りに送れるようになることを目指す

*2:参加者が集まり、過去の飲酒経験などを話し、聞く場

*3:生活保護法による保護施設。身体上または精神上の理由により養護および生活指導を必要とする者を収容して、生活扶助を行うことを目的とするもの。集団で施設の規律を守りながら合宿生活をする